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広島高等裁判所 昭和24年(う)496号 判決 1950年3月22日

被告人

三木多賀治

主文

本件控訴を棄却する。

理由

被告人の控訴趣意第二点について。

凡そ犯意の成立には特別の規定がない限り犯罪事実の認識があれば足り其の以外に違法の認識を必要とするものではないから縱令被告人が主観的に正当な行爲であると意識したとしても之が爲本件物價統制令第十三條違反の罪の犯意を阻却するものではない。

(被告人三木多賀治の控訴趣意第二点)

次に原審判決は法令の解釈に誤りがないと仮定し被告人は原審公判で事実を認めております但し指定生産資材ではなく又價格違反もないから違法と思はなかつた旨を述べております。本件有煙豆炭と白色セメントの取引が價格違反でない限り取引は自由である而も取引の商品が数量と價格において比率が対等であるから代金決済を省略し商品と商品とを交換したのであつて斯くすることは從來の慣行上全く正当且便利と信じ公然と取引をしたのでありまして毫も違法性の認識はなかつたのであります。

殊に被告人は自分が主宰する会社の代表者として業務上行つたことでありまして当時工場原料として最も必要なセメントの配給は所要量の一割にも達しないから其のままでは自然休業せねばならず斯くては多数の從業員を失職せしむる事態が生ずるので甚だ心痛して居る際幸小野田セメント製造株式会社の斎藤氏からセメント製造に要する燃料の有煙豆炭を提供すれば統制外品白色セメントを渡してやると言はれ本件取引となつた次第でありまして小野田セメント株式会社のような世界的にも有名な大会社の言うことであるからそれが違反になるなど考慮の余地なく善意無過失で取引したのであります殊に被告人としては之に因り会社の業務が続けられ多数の從業員の失職を免かれ一面戰後復興の爲業界に聊か貢献したいと思ひて直に之を実行したのであり被告人の行爲は犯罪の主観的要件を欠いております此の点原判決は事実の誤認ではないかと疑います。

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